すでに起こった記憶を観ているとはいえ、思葉はそう叫ばずにはいられなかった。
けれども、琴の歩みは当然止まらない。
やがて琴は外側の廊を走っていた。
そして、渡殿のところで一人の山賊と鉢合わせした。
男はかなり上背があり、むき出しの腕は熊も絞め殺せそうなほど隆々としている。
突然現れた琴に男は驚いた顔をしたが、すぐにいやらしい笑みを浮かべて舐めるように姫を見た。
「ほう、こんな山寺にこんな娘がいたとは。
へへっ、さっきの拾い物といい、おれはかなりついているな」
琴は男の言葉など耳に入っていないらしかった。
ただ一点を、男の手にある霧雨玖皎を凝視している。
何かがはじけ飛ぶ音がした。
それは、琴の身の内で生じた音だった。
身体の奥深くが熱い。
沸騰した湯水よりも熱く、激しく煮えたぎっている。
(駄目……駄目……っ!)



