膳をひっくり返す音、大勢の人々が逃げ惑う音、恐ろしい男たちのだみ声、刀を振り回す音……
これまで琴が一度も聞いたことのない暴力的な音ばかりだった。
身体中に、衝撃に近い恐怖が駆け巡り、総毛立つ。
「姫さま」
御簾の隙間から滑り出ると、几帳を蹴倒す勢いで苑珠が入ってきた。
白粉を塗っている顔がさらに青白く見える。
恐怖におののく表情が火皿の明かりに浮かび上がって、一瞬だが鬼女のようだと琴も思葉も感じた。
「苑珠、これは一体何の騒ぎじゃ」
「山賊でございます、山賊がこの寺を襲ってきたのでございます」
「なにっ?警護の方は何をしておる。
今宵は腕の立つものばかりが寺を護っているのではないのか」
「わ、わたくしにもなぜこのようなことになったのか……
ともかく、早く逃げましょう。
ここに居ては危険です」
痛いくらいの力で苑珠に腕を掴まれ、琴は引きずられるようにして部屋を出る。
あちこちから届く危険な音に心が落ち着かなくなっていた。
少しでも遠く安全な場所へ逃げなければ、逃げなければ……そう思う途中で琴は足を止めた。
苑珠が振り返る。



