「……そうだ、玖皎、そなたに霧雨玖皎とは別の名前をやろう。
前に読んだ絵巻にな、忠義を誓う者は主から贈り物を与えられるものだと書いてあったのじゃ。
それはつまり、主人は己のために働いてくれる者へ感謝せねばならぬということ。
那蘭たちにも道臣にも贈り物はしたが、そなたにだけはまだ何もしておらなんだった。
そなたは太刀ゆえ、褒美の品をやってもあまり意味が無いだろう?
だから、わらわだけが呼ぶ二つ名というものをあげよう。
わらわとそなたしか知らぬ、秘密の呼び名ぞ。
ふふ、安心せい、わらわは名付けが上手じゃ、妖怪を斬る太刀にふさわしい恰好いいものにしてやるぞ」
だから、わらわの元を離れてくれるな。
その言葉を呑み込んだのが分かる。
分かってまた胸がずきりと重くなる。
琴は立ち上がり、部屋の反対側にある文机へ向かった。
さっきまでの暗いものとは打って変わって明るくなった琴の気持ちを強く感じた。
白い手が筆を持ったところで、また景色が変化する。



