身じろぎしたとき、長い髪の房が肩から胸の方へ流れる。
琴は椿油の匂うつやつやした髪をつまんだ。
「名づけの儀式を行ったら幼名は捨てると聞いたときにな、わらわはいやだと思ったのだ。
わらわの『琴』という名前は、父上がわらわに贈ってくださった琴にちなんだものだからな……父上との繋がりを感じられる、数少ないものじゃ。
されど、もしかしたら父上と母上は、わらわが大人になり幼き名を捨てることをお望みなのかもしれぬ。
名前が変われば、繋がりがひとつ切れるからのう。
わらわが大人になってどこかの殿方の妻となってしまえば、もうわらわなど知ったことではなくなるだろうて」
胸の痛みが琴の記憶なのか、それとも観ている自分自身のものなのか、思葉には分からなくなっていた。
息が苦しい。
琴が抱えているものが重くて苦しいのだ。
「……つまらぬ話を聞かせたな、許せ」
ふ、と琴が力なく微笑んだ。
「望まれたとしても望まれなかったとしても、こうしてわらわはこの世に生まれたのだ。
精いっぱい生き通さねば天から罰が当たるな」
咎める者がいないからか、琴は紅色の小袿から手を出して玖皎の柄に触れた。
小さな子猫の頭にそうするように優しく撫でる。
驚いたのだろうか、また思葉にだけ、玖皎の雰囲気が揺れたように映った。



