妖刀奇譚






受け手のいない言葉が広い部屋に虚しく散じる。


几帳や衝立の後ろに人の気配はなかった。


琴はため息をついて立ち上がると、玖皎の傍に移動した。


刀掛けの脇に横座りし、仄かに太陽の光を感じる浅葱色の几帳を見遣る。



「たったこの距離だが、このくらい動くだけで咎められる。


まったく、これが高貴な姫のあるべき姿なのか、この脚は着物で包み隠すためにあるわけではないだろうに」



琴がどこか諦めを含んだ調子で笑った。


美しい彩りの組紐を巻かれた玖皎は黙したままでいる。


本当は、琴に聴こえないだけで何か話しているのだろうか。



「着裳の儀の日取りが決まったぞ。


わらわももうすぐ、正式に大人になる……『琴』という名とともに、幼さを捨てる日が来るのじゃ」



いつの間にか、琴の纏っている着物は大人びた色合いのものになっていた。


ちらりと見えた髪は引きずるほどに長い。


着裳の儀式を済ませ、眉を抜き歯を黒く染めて白粉を塗れば、高貴な姫のその姿になるのだろう。



「幼いときは早く大きくなりたいとばかり思っていたが、こうも窮屈だと嫌になる。


このままで居られたら……あ、今のは内緒だぞ、羽木の耳にでも入ったら大変だ。


それに羽木たちが知れば必ず那蘭(なら)にも伝わってしまう、那蘭の小言は本当に長いからなあ」