妖刀奇譚






琴は一心に弦を弾く。


ゆったりと、時折力強く激しく、緩急をつけて演奏する。


だが途中から、指先で好きに弦を摘み弾くだけになっていた。


やがて、それすらも止まる。


琴が顔を上げたことで、思葉は彼女のいる部屋がさっき見た場所よりも、かなり薄暗いことに気がついた。


寺の奥にある部屋なのだろうか。



「……ここのところ、稽古ばかりしているな」



琴が呟くように言った。


室内には誰もいない、ということは、これは独り言なのだろう。


もしくは、玖皎に話して聞かせているのだろうか。



「毎日毎日、高貴な姫に必要なものを身につけるために稽古。


これでは抜け出すどころか、絵巻を見る暇すらない。


それにこんなに奥の部屋では、境内の景色が楽しめないのう。


今は弥生だから、もうすぐ蕗の薹や土筆が芽を出すか」



琴は目を伏せて自分の手を見た。


陶磁器のように白い手だ。



「もう長いこと、あの眩しく奇麗な光を浴びておらぬ。


羽木たちは日の光に当たることは姫としてあってはならぬことだと言っていたが、浴びない方がよほど身体に毒ではないか」