付喪神の手が空でぴたりと止まる。
背筋を寒くさせるような声も漏れ出なくなっていた。
「他人の髪を憎く思っていたのはあなたじゃない。
あなたを使っていた持ち主なの、あなたの意思じゃないんだよ」
棟口から教わった話が、いつの間にか付喪神と同一となって思葉の中で整理されていた。
しかし冷静になって考えてみれば、その恨みを抱いたままこの世を去ったのはあくまで持ち主の女だ。
付喪神は人の手でつくられたものに宿る。
そしてこの付喪神は人間の髪に触れることによって霊力を蓄えてきた。
そのとき、一緒に怨念も吸い込んでしまったのだろう。
そのせいで、最初の主人にかなり感化された姿となり、思葉の前に顕われた。
触れるたびに観えた付喪神の記憶の中に、明らかに人間の目を通して見た記憶が混在していたのはそのせいだ。
「お願い、目を覚まして、自分の心を思い出して。
最初の主人の怨念に染まる前に、あなたは確かに自分の心を持っていたはずだよ!」
それは髪に捕まったときに聴こえた、最初の持ち主だった女の声に混ざっていた。
付喪神がどこまで感化されてしまっているのかは分からないが、おそらくあの言葉だけは、主人の願いと付喪神の望みが重なったものだ。



