もう一度目を閉じ、暗闇に意識を向ける。
女の姿が浮かび上がる。
それは付喪神の層に閉じ込められたときに観えた映像の中に居た女だった。
恐らくこれは付喪神の記憶。
一昔前の小物屋だろうか、何種類もの櫛や簪が並ぶ店先が一瞬、その中から照柿色の飾り櫛を選び取る白い手が一瞬過ぎった。
古風なつくりの鏡台が観える。
鏡台の前に座る女の顔立ちは、決して美しくはないが醜悪というほどでもない。
鏡に映る女は、照柿色の櫛で髪を梳かしている。
その映像が消え、次に誰かと一緒に並んで歩いているところが観える。
恋仲であった男だろうか。
また次の映像が観える。
部屋でヒステリックに暴れていたが、暴れ疲れるとうずくまり泣きじゃくり始める。
荒れた畳に額をこすりつける女の、血色の悪い両手にかたく握りしめられている。
これは櫛から見た記憶だろう。
その姿が薄れ、また鏡台に座って一心に髪を梳かし続ける女の姿が浮かぶ。
やせ細った体躯から、この女がどれほど髪に命をかけているのかがひしひしと伝わってくる。
奇麗にしないと、奇麗にしないと……
乾いてひび割れた唇が、何かに取り憑かれたように同じ言葉を繰り返している。
床に放り出されている鋏が鈍く光を反射している。
(あれ?)
思葉は違和感を覚えた。
何か、とんでもないことを見落としている気がする。
記憶の中に手がかりが大量にあるのに、そのどれにも閃けないもやついた気分になる。
何か、何か……



