――きっとわたしよりも奇麗な髪をした女だろう。
――どうしてくれよう……見つけ出して千千に切り刻んでやろうか……
――いいえ、それだけじゃ足りない、奇麗な髪の女がいる限り安心できない。
――ああ、髪を梳かさないと。
――美しさを無くしたら、本当に見限られてしまう。
――髪を、奇麗に、奇麗な髪に……
骨と皮ばかりの痩せた手が、虫食いの多い畳の上に転がる照柿色の飾り櫛に伸びる。
頬に衝撃を覚えたのはそのときだった。
「思葉!おいしっかりしろ、思葉!」
痛みと呼ぶ声に意識が引き戻された。
思葉は髪から解放され、玖皎に抱えられていた。
我に返ってすぐ視界に入った玖皎の顔を観て少し驚く。
「く、玖皎?」
「目が覚めたか、正気だな?」
「うん……あれ?今……」
今観たものを思い出そうとしたが、付喪神の声を聴いて意識が完全に現実へ引き戻される。
玖皎は片腕で思葉を抱えたまま、その場から飛び退いた。
一寸前まで2人がいた場所に髪が突き立てられる。
「何を観たのか知らんが、急にうわ言を喋り出したから、取り憑かれたのかと驚いたぞ」
「え、あたし喋ってた?」
「やっぱり自覚はしていなかったか……。
いいか?こういう類のものが観えたり聴こえたりするというのは、それだけ感化されやすいということだ。
特におまえはそのきらいが強い。
詠唱した被甲護身を信じて気をしっかり保て、でないとやつの負の思念に呑み込まれて自我を見失うぞ」
「ごめん……」



