妖刀奇譚






あの、耳を通して聴こえてくるのではない不気味な声が静かに寄ってくる。


乾いた笑声にハッと顔を上げると、付喪神はもう目の前まで来ていた。



「思葉、逃げろ!」



そうしたいのは山々だが、片膝は地面から離れようとしてくれない。


付喪神の妖気の光を浴びる鋏が向けられ、思葉は唇を噛んで太刀を握り直した。


振り下ろされた切っ先を刀身で受け止める。


自分の意思で動いたのか、それとも玖皎に操られてなのか、それすら判別つかない。


刃と刃が擦れ、ぎちぎちと耳障りな音を立てる。


にいっと、付喪神が歪な笑みを深めた。



「あはははは、赦さない、わたしよりも奇麗な髪は赦さない……」



彼女の背後で、髪が触手のようにうねる。


雲間から差し込む月光に照らされる髪の先端は、すべて思葉を狙っていた。


このままでは確実に刺される。


だが鍔迫り合いにのしかかる力が強く、身動きが取れないままでいた。


どくり、どくり、と、心臓が嫌な鼓動を打った。



(まずい……これは本当にまずい……)



もう玖皎の力には頼れない。


ここは自分自身に掛けた被甲護身を信じて耐えるしかなかった。



「あははははははは!」



髪が一斉に思葉に襲いかかる。


玖皎が何か叫んだが、心を向ける余裕はなかった。


思葉は歯を食いしばって目をつぶり、薄い壁があるとイメージして身体を堅くした。