妖刀奇譚






静かな、そして複雑に入り組んだ住宅街を選んで走り続ける。


理由は見通しのいい道だとほかの人と遭遇しやすいのと、付喪神に追いつかれやすい可能性が高いからだ。


日本刀を持って駆け回る女子高生なんて噂が立ったらたまったものではない。



「つ、着いた……!」



そこは高校の裏に広がる杉林だった。


森ほど深くはなく、丁度いい塩梅にアップダウンがあるので、体育の授業や運動部のロードワークによく利用される。


ちなみに、花粉症持ちの生徒や教職員からは嫌われている林である。


体育の授業でしか入ったことはなかったが、思葉はコースの途中に開けた場所があることを覚えていた。



「ここで大丈夫?」


「ああ、あとはやつを仕留めるだけだが……護身が必要だな。


今のうちに九字を切っておけ、やり方ぐらい知っているだろう、被甲護身もしておいた方がいい」


「う、うん」



被甲護身も九字の切り方も、幼い頃に永近から教わっている。


思葉は玖皎を地面に突き立て、まず内縛三鈷印を結んだ。



「オン・バザラ・ギニ・ハラチ・ハタヤ・ソワカ」



――極めて威耀ある金剛の智火により身を鎧い、諸魔を退け、化他の事業を成就せん事を。



次に刀印をつくり早九字を切る。


一つ一つ印を結ぶには余裕が足りないので止めておいた。



「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・センダンマカロシャダヤ・ソハタヤ・ウンタラタ・カンマン」



――激しい大いなる怒りの相(すがた)を示される不動明王よ、迷いを打ち砕きたまえ、障りを除きたまえ、所願を成就せしめたまえ。



「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」



――臨む兵、闘う者、皆陣列ねて前に在り。