自分がどのように動き、どのようなことが起こったか、思葉がその細かいところまで思い出せたのはしばらく後になる。
このときは状況がのみこめず、自分の腕の中で気絶している幼馴染を見て、かなり気が動転していた。
キャスケットが、音もなく思葉の足元に落下する。
「あ、あれ?今あたし……って、來世ぇ!?
なんでこんな時間に……というか、え、なになに、なにこれどういう状況なの!?」
「おおっ、千年ぶりにやったが、こんなにうまくいくとはな。
正直動かしすぎて転ばせるかと懸念していたが」
「……玖皎、もしかして今、あたしを操った?」
「もしかしなくとも。はっはっは、おれもまだまだ歳を食っていないということか」
「何笑ってんのよ、じじいの範疇超越してるくせに」
「いやいや、操らないと言っておきながら勝手におまえの身体を操ったのは謝る。
だが、そう怒ってくれるな、うまくいったのだから良しとしろ」
「あんたねえ……」
飛び出してきた道の方から、不穏なものが迫ってくるのを感じる。
思葉は百万語を呑みこみ、倒れた自転車を隅に寄せて、すぐ傍に立つ電柱に來世を寄りかからせた。
こちらも、玖皎の言う『連中』に任せておけば心配はいらないらしい。
「ほら、こっちこっち!」
付喪神の意識を來世へ向けさせないよう、声を掛けながら下り坂を走る。
途中でキャスケットを被っていないことに気付いたが、取りに戻っている暇はなかった。



