妖刀奇譚






「綾乃さん!」



綾乃は気を失っているのか返事はなく、ぐったりとしている。


薄明りで顔色が悪く見えたが、脈は正常に動いていた。


どこにもけがはしていない、髪も無事だ。


タータンチェックのパジャマを着ているから、さっきまで室内に居たのだろう。



(よかった……でもどうしてこんな格好で外に?


もしかして、あたしみたいにあの付喪神にここへ誘い出された……?)



「アァァアアアアアア!」



突然、背後で怒りに染まった怒声が発せられる。


思葉は綾乃を抱えたまま振り返った。


付喪神が苦しそうに両手で顔を覆っている。


その周りで、あの赤藍色の光が付喪神の感情に呼応して妖しく揺れ動いた。



「髪、が……あぁぁわたしの髪が……!」


「逃げろ思葉!


逃げながらこいつを人気のないところへ連れて行け!


ここで闘ったら誰を巻き込むか分からんぞ」


「えっ!?だ、だけど、綾乃さんを置いていくのは……」


「そいつは連中に任せりゃ大丈夫だ、とにかく急げ!」



連中、という玖皎の言葉に引っかかったが、背後で渦巻く殺気にそんなことをしている場合ではないと判断する。


さすがに綾乃を道端に放置するわけにもいかないので、彼女の家の玄関によりかからせておいた。


もう一度道に出たとき、顔から手を離した付喪神が思葉の方を向いた。


紫色の唇が動き、氷のような怒りのこもった声が発せられる。



「おのれ……よくも、よくもわたしの髪を……!」


「走れ!」



玖皎が叫ぶと同時に、付喪神が鋏を掲げて思葉に攻め寄る。


一旦玖皎を鞘に納め、思葉は回れ右をして駆け出した。