「思葉、急げ!」
「うん!」
思葉はマンションの駐車場を横切り、フェンスを飛び越え、角を曲がり綾乃の自宅がある通りへ出た。
嫌な気配を感じて足を止め、柄に手をかけながら前方を睨む。
街灯と街灯の間にある綾乃の家の前の辺りで、二つの影がもみ合っている。
どちらも人の形をしているが、片方は棒立ちで何かを触手のように伸ばしてもう一方を襲っていた。
悲鳴を上げているのは襲われている方だ、距離があって聞き取れないが、今も何か叫んでいる。
触手は十中八九、長い髪だろう。
ここからでは遠くて、襲われているのが誰か分からない。
「ど、どうしよう、玖皎!
あれ付喪神だよね、誰か襲われている……」
「どうしようも何も行くしかないだろ。
探すと宣言したときからこうなることは予想していただろうが、援護してやるから腹をくくれ」
「う……ああ、もう!」
もうどうにでもなれだ、思葉は鯉口を切り、抜刀する。
抜き払った刀身は、街灯と空からのわずかな光を弾いて妖しく輝いた。
その姿はまさに『妖刀』。
思葉はキャスケットを目深にかぶり直し、青眼に構えて呼吸を整えた。



