「おい、思葉、その道を右に曲がれ」
道順を思い出そうとしたとき、玖皎が鋭い声で思葉に命じた。
がらりと変わった声音に思葉に緊張が走る。
「えっ、ど、どうして?」
「そちらの方から、あの付喪神の波動がする。
しかも強烈だ……おまえに襲いかかっていたときとよく似ている」
その言葉の意味するところを悟り、思葉は青ざめた。
嫌な予感は外れないものである。
「とにかく急げ、また層をつくり出されていたらたまったもんじゃない」
「わ、分かった」
思葉はスマートフォンをウエストポーチに突っ込み、アスファルトを蹴った。
静まり返り、明かりもぐっと減った住宅街に、思葉の足音だけが響く。
その音と自分の荒れる呼吸しか耳に入らない。
悪いイメージが頭の中をよぎる。
(綾乃さん……どうか無事でいて……!)
あまり運動が得意でない自分の身体がもどかしい。
息を吸うたびに脇腹が痛み、走るペースも遅くなっている。
アスファルトの裂け目に躓いて危うく転びそうになり、思葉は塀にもたれかかって両膝に手をついた。
長距離走は苦手だ。
肩で息をしている思葉に玖皎が声をかける。



