「いえ、孫はおれだけです。こいつは幼馴染っす」
(ちょっと、なんで押し売り業者にそんな説明してるのよ!)
という気持ちを込めて、思葉は來世のふくらはぎを軽く蹴った。
男が身体をこちらに向けて崩していた姿勢を正したので、來世が軽く頭を下げながらそこに正座する。
思葉もその隣に座った。
「突然お邪魔してすみません。わたくし、こういう者でして」
男が來世に名刺を差し出す。
『古美術商 長谷部清史(はせべ きよふみ)』
シンプルな見やすいフォントでそう書かれていた。
本名かどうかさえも怪しい。
「今、辻森(つじもり)さんにこちらの水墨画の掛け軸をご紹介させていただいているところでしてね。
実はこちら狩野元信(かのう もとのぶ)という、狩野派2代目の絵師の作品でございまして、我々の業界でもなかなか有名な水墨画なんですよ」
話しながら、長谷部という男は白い手袋をはめて脇に置いてあった長細い木箱を前に差し出した。
蓋を外し、中にしまってあった掛け軸をするすると広げる。
おおっと來世が声を漏らした。
思葉は右手首をぎゅっと握って殴りたくなった衝動を抑える。



