教室に入り、席について鞄の中身を移しているところでチャイムが鳴った。
廊下に居たクラスメイトたちが慌ただしく席に戻る。
程なくして副担任の折田(おりた)がやって来て、教室内は静かになった。
担任の細川(ほそかわ)ではなく、新任教師が教壇に立つのを見て、クラスの空気が少し揺れる。
「ええと、細川先生なんですが、インフルエンザにかかってしまったのでしばらくお休みになります。
小学校の方では学級閉鎖になっているところもあるみたいだから、みんなも気を付けて。
その間の数学の授業は数野先生が担当してくださいますので、Bクラスの人だったかな、迷惑のないようにね」
「ええー、インフル?」
「流行ってるよね」
「細川先生、歳なのに大丈夫かなあ」
最後の男子の声はなかなか大きく、教室内に笑いを誘った。
折田はやんわり咎めつつ出席簿を開く。
頬杖をついて、思葉は折田の胸元を見つめた。
左襟足でまとめられた長い黒髪は、脇腹あたりまで伸びている。
出欠を取り終え、一日の予定の確認と定期試験について軽く触れてから、折田は一枚のプリントを手にした。
「じゃあ最後、不審者情報について」
教室が少しだけざわつく。