「ばあちゃーん」
來世はガラガラ大きな音が鳴るように加工された引き戸を開けた。
一応インターフォンは設置してあるけれど、ここ一帯の家屋は基本的に昼間は鍵を掛けないので使わない。
玄関には男ものの茶色の革靴が脱いであった。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
「どうも、あんたの家じゃないでしょ」
「細かいことはいいんだよ」
思葉はなるべく革靴から離れたところにローファーを揃えて置く。
身内の家だからか、來世はスニーカーを揃えないまま居間に向かった。
「ばあちゃん」
池と金魚と木の枝の絵が描かれている襖を開ける。
入ってすぐのところにある卓袱台に座っていた富美子が顔をあげた。
背筋はピンと伸びているが、その表情はとてもおっとりしている。
微笑むと眦にシワができてさらに優しい雰囲気になった。
「あら、俊太郎(しゅんたろう)、いらっしゃい」
「ばあちゃん、おれ父さんじゃないから、來世だって。
さっき電話してくれただろ?」
「ああ、來世かい?よく来てくれたねえ。俊太郎は元気にしてるかい?」
「元気に仕事に行ってるよ」



