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棟口の家を出た思葉は、来た道を戻るのではなく裏にある蔵の方へと歩いた。
少し気になることがあったのだ。
「あれ、ここ……」
別の細い道に出て、思葉は足を止めて左右を見る。
そこは富美子の家から帰るときによく利用していた道だった。
苔むした塀の向こう側に建つ、棟口の家の蔵を見上げる。
(間違いない、ここは……)
「どうかしたのか?」
行動に疑問を感じたのか、玖皎が尋ねてくる。
思葉は蔵を見上げながら、約一か月前にここで妙な視線を感じたことを話した。
それ以来、この道は一度も歩いていない。
何となく通る気になれなかったのだ。
「……その視線は、もしかしたらあの付喪神のものじゃないのか?」
「あー、やっぱりそう思う?」
「この状況で視線を感じたというのなら、そう考えるしかあるまい」
自転車に乗った大学生くらいの男がやってきたので、思葉はひとまずそこから離れることにした。
歩いている途中で、『不審者に注意!』という黄色い文字が目立つ電柱の貼り紙を見つける。
立ち止まって読んでみると、先ほど棟口から聞いたのと同じ、黒い長い髪の女性だけを狙った髪を切る通り魔についての内容だった。



