「美しい髪を保つために、寝食を忘れて櫛で髪を梳かし続けたせいで衰弱死した……この櫛はその女性の亡骸が持っていた、そう教えられたらしいんです。
母はそういった類のものは一切気にしない人だったので、気に入ったその櫛を迷わず買ったんだそうです。
叔母はおもしろそうであれば曰くつきだろうと物騒だろうと嫌がらない人なので、それを止めませんでした。
……実はこの話も幼い頃によく叔母から聞かされたのですが、もしかしたら叔母がいくらか脚色したのかもしれません。
叔母はわたしを怖がらせるのが好きでしたので。
……記憶違いがあるかもしれませんが、確か、櫛に関してそのような話を聞かされました」
どこまで本当なのかは分かりませんが、と言って棟口は苦笑する。
思葉もつられて表情を緩めようとしたが、引きつっていてうまく動かせなかった。
今の棟口の話と昨夜の付喪神が発していた言葉。
両者が頭の中でつながっていく。
「……あの付喪神には、その怨念が絡んでいるみたいだな」
玖皎もそう感じたらしく、思葉が考えたことと同じことを口にした。
棟口が眉根を下げて思葉を見遣る。
「すみません、わたしからお話しできるのはこれくらいです……。
少しはお役に立てましたか?」
「はい、すごく参考になりました、ありがとうございます」
「……本当に申し訳ありません。かなり迷惑なことを押し付けてしまって」
「大丈夫ですよ、あの櫛のことはこちらで何とかしますので、棟口さんはどうぞ安心してください」
これは嘘ではなく、本心からである。
付喪神には逃げられてしまったが、放っておくつもりはなかった。
他に被害が出てしまう前に見つけて止めたい。
棟口が眉を八の字にして笑う。
けれども、最初に会ったときよりは表情に元気が戻っていた。



