「そうしたら……今までわたしの前に現れるだけで何もしなかったその女性が振り返りました。
顔は見えませんでした……女性の髪がわたしに襲いかかってきて、それに覆い尽くされて視界が真っ黒になったんです。
でも、その隙間から母の使っていた古い櫛が見えて……それで目を覚ましました。
あの櫛が原因だと悟りました。
朝になってすぐに蔵に向かいましたが、やっぱり髪の切れ端の束は落ちていました。
わたしはもう怖くなって……櫛を箱ごと持って、そちらにお伺いしました。
持って帰るのは恐ろしかったので、招き猫の裏に置いて帰ったんです……ご都合が悪いのに、押し付けてしまいすみませんでした」
「あ、あたしの方こそ……詳しいお話も聞かずに断って、申し訳ありませんでした」
棟口に頭を下げられたので、思葉もあわててこうべを垂れた。
何が何でも、昨日のうちに話を聞いておけばよかったと後悔する。
顔をあげた棟口が、不安そうに思葉を見た。
「それで……あの櫛は今どうしていますか?」
「えっと、今はうちの蔵にしっかりしまっています。
うちは曰くつきの商品を預けられることが多いので、そういった物はどうすればいいのかは祖父から叩きこまれていますので安心してください。
今朝蔵を掃除しましたが、髪は落ちていませんでしたね」



