棟口が湯呑みを手にし、水面に映る自分の顔を見る。
「それが何度か起こったとき、近所で流れ始めた奇妙な噂を聞きました。
夜遅くにこの周辺を歩くと、誰かに髪を切られると。
そして被害に遭うのは決まって、黒い長い髪をした女性だと。
すぐにわたしは、わたしの蔵に髪を捨てる誰かが犯人だと思いました。
それが、前日にわたしの夢の中に現れる女性だとも思いました」
聞きながら、思葉は数日前に、階段ですれ違った先輩女子グループが話していた内容を思い出した。
彼女たちは「普通じゃない通り魔」と言っていた。
もしかしたら、あの中に被害を受けた生徒がいたのかもしれない。
先頭を歩いていた女子の髪型は確か、長い黒髪だった。
「それからも夢は見ましたし、蔵に行けば髪が落ちていました。
一昨日の晩にも……それで我慢できなくなりましてね。
夢の中ではありましたが、その女性に向かって言ったんです……もう女性を襲って髪を切るのは止めてくれ、と」
湯呑みを持つシワの多い手に力がこもる。
思葉もスカートをぎゅっと握った。



