それは、幸いにもまだ大切な人を失ったことのない思葉には想像でしか察することのできない痛みだった。
「さて、どこから話せばいいでしょうか」
襖を閉め、向かいに座った棟口が思葉を見る。
思葉は湯呑みを置いて居住まいを正した。
「はい、ええと……どうして、あの櫛をうちに預けたいと思ったのか。
それを教えていただければ……」
「やはり、おかしいのは、あの箱にしまってあった櫛ですか?」
「ええ……それがどうかしましたか?」
棟口が唇を噛んで視線を泳がせた。
どう説明しようか思案しているのが伝わってくる。
「……順を追ってお話しましょう。
実はあの櫛は、というより、あの箱にしまってある簪や鋏は、すべて母の遺品なんです。
わたしが高校を出て独り立ちするまで、母が使っているのをよく見かけました」
(だからどの道具も古かったんだ)
口には出さず、思葉は心の中で納得する。
「白髪が増えて、昔のように髪を長く伸ばさないようになってからは、お役目御免となって箱にしまわれて化粧台の下に置かれていました。
あの押し櫛よりも、美容院でもらったヘアブラシの方が使い勝手が良さそうでしたし。
母が亡くなって遺品の整理をしている最中に見つけましてね……他の遺品と裏の蔵にしまっておいたんです……」



