思葉はため息をついて、肩にかけた鞄をしょい直した。
チャイムを鳴らそうと指を伸ばして、少し迷って引っ込める。
それを4回繰り返したところで、玖皎が苛立った声をあげた。
「さっきから何をぐずぐずしているんだ、さっさと入れよ」
「そ、そんなこと言ったって、さすがに入りづらいわよ。
昨日会ったは会ったけどほぼ初対面だし」
「はあ?今更そんなことを気にしているのか」
「気にするわよ」
人見知りが足を引っ張っている。
店番のときのように、受け身の姿勢で行くのとは大違いだ。
來世のコミュニケーション能力が羨ましく感じる。
「だからって、このまま突っ立っているわけにもいかないだろ。
ほらほら、早くしないと日が暮れるぞ、ちんたらするな」
「あーもう、人の気も知らないで」
こうなったら、なるようになれだ。
思葉は目をつぶってチャイムを押した。
(あああ、押しちゃったよ、どうしよう……お、落ち着かなくちゃ)
思葉は息同然の小声でぶつぶつ言い、それを聞いて玖皎がやれやれとため息をつく。
奥の方からスリッパの足音が駆けてきたので、思葉は口を閉じて深呼吸をした。



