妖刀奇譚






犬の遠吠えがどこかから聞こえる。


哀しさを含む声は夜の静けさを壊すのではなく、さらに深めていった。


静寂が、耳に痛い。


先ほどの耳鳴りの何倍も痛い。


わずかな呼吸の音を立てることすら憚られる。


思葉は首を竦めて玖皎から視線を外した。


定まらない視界に、明々と燃える炎が観えた気がする。


頬にちりちり熱を感じたのも気のせいだろうか。



「山賊の手に渡ってから、おれは妖怪ではなく人を斬るようになった。


まあ、太刀とは本来そういう使い方をするのだから、おれの事情を知らない者にとってはそれが当たり前だ。


おれを振るったのは、姫を斬り殺した男ではなく山賊の頭領だった。


だがそいつは三月も経たぬうちに別の山賊たちに部下ともども殺され、おれはそいつらに捕まった。


あとはひたすらその繰り返しだったな。


いつの間にか平家という一門の武士の手元に居て、かと思いきや次はそいつらと敵対していた源氏の者に戦場で拾われた。


主人が替わるごとに日本のあちこちを移ったし、途中で『霧雨玖皎』とは別の名で呼ばれるようにもなった。


まあ、興味もないし虫酸が走るのでどんな名だったかは忘れたが」