玖皎がわずかに項垂れる。
白い長い髪が一房、彼の肩からさらりと流れた。
彼の周囲にだけ蔭りができたように見えた。
「姫と鉢合わせしたのは、やつが寺の本堂へとつながる渡殿に差し掛かった時だった」
思葉は短く息を吸い込んでいた。
覆い尽くす嫌な予感に胸がきりきり痛み始める。
(嘘でしょ……まさか、まさか……)
今玖皎が話していることはすべて、もうすでに起こった過去。
分かってはいても、そうであってほしくないと願わずにはいられなかった。
「姫は寺じゅうを走り回っていた様子でいた。
きれいに着飾っていた身なりはひどく乱れ、息を切らしておれと山賊を見ていた。
山賊は姫を見るや否や、いい獲物に巡り合えただのと下衆な言葉を口にした。
女ならば見境なく、といった風だった、今思い出しても不愉快だな。
おれは姫に、おれの声が届かないことを忘れて何度も『逃げろ』と叫んだ。
だが姫は逃げなかった。
どこで手に入れたのかは分からんが、懐から短刀を取り出して山賊に飛び掛かったんだ……おれを取り返そうとしてな」



