玖皎が不満そうに小さく舌打ちして床のあたりに目を落とす。
伏せがちになった双眸に少し切なげな光が宿った。
「人間とは、かくも変わりやすいものなのだな。
今まで境内じゅうをやかましいくらいに走り回っていた姫が、着裳へ向けて稽古や学術に励むようになった途端、生来の明るさがどんどん失われていくように見えた。
その代わりと言ってはあれだが、姫はどんどん美しく育っていった。
しかし……あの姫の姿は、着飾られた美しい人形のようだった。
侍女たちは姫の立ち振る舞いのことごとくを褒めていたから、貴族どもの求める『姫』という姿はそれでよかったんだろう。
だが、姫の話を……姫の心の奥深くにある言葉をいちばん聞いていたおれには、とてもそうは思えなかった」
思葉はいつか見た、源氏物語と枕草子、紫式部日記絵巻をモチーフにした映画を思い出した。
スクリーンの中に登場する女優たち、特に『姫』の立場を演じていた女優たちは、みな揃って美しく儚げであった。
学校でその映画の話になると、必ずといっていいほどどのお姫さまがいちばん素敵だったかを話していた。
思葉も姫役の女優たちはみんな美しいとは感じていたが、素敵であったとは思わなかった。
優雅で上品ではあったけれど、なんだか生きているのに生きていないように見えたのだ。



