んー、と玖皎が何かつぶやきたそうに口をもそもそ動かした。
だが良い言葉を思い浮かべることができなかったらしく、唇をとがらせて小さく首を振る。
「厳密に言うとそれだけで相手を支配することはできないんだが、まあ今はそのことは置いておこう。
とにかくおれは天皇の娘……琴(こと)姫の護り刀として、道臣とともに都を囲う山の一つにあった寺で暮らすことになった」
琴姫。
一文字足りないだけで自分の名前とほとんど同じだと思葉は感じた。
初めて名前を教えた日、玖皎が『こと』の部分に異様に食いついていた理由はこれだろう。
「帝が贈った琴にちなんでそう名付けられた、安直であろう」
言いながら玖皎は鼻息だけで笑ったが、思葉は笑わなかった。
安直ではあるかもしれないが、実父から贈られた物が由来となっているのなら笑う筋合いはない。
「どんなお姫さまだったの?」
「お転婆で、かなり変わった性分をしていたな。
すぐに部屋を抜け出しては境内の林を歩き回っていたし、そこすら脱走して野の花を摘んだりしておった。
時々花だけじゃなく、虫や蛙なんかを持ち帰っては乳母や侍女たちを驚かせていたぞ。
いくら見張っていても目を盗んですぐ抜け出そうとするから、侍女たちが姫の髪飾りに鈴を付けるようになっていた」
気ままに歩き回る、鈴を付けた姫。
なんだか猫のようだと思葉は思ったが口には出さなかった。



