玖皎は胡坐をかく足を組み替えると、やや言いにくそうな様子で口元に手をあてた。
「時の帝からの勅諚があったのだ」
「それって、一条天皇?」
「ああ、訳合って入内できない娘を妖怪の類から護れという命を受けた、とやつは話していた」
「天皇の子どもなのに入内できなかったの?」
思葉は眉をひそめて首をひねった。
ひらひらと玖皎が蠅を払うように手を動かす。
「詳しいことは晴明も聞かされていなかったらしいからおれにも分からん。
まあ、どうせくだらぬ理由だろうよ。
内裏をうろつく連中は帝も含めて、実にくだらない体裁やしきたりばかりを気にしていた。
それで天皇は晴明にその娘のもとにいて欲しそうにしていたがそうもいかなくてな。
陰陽寮の中で妖怪を祓う力に長けていた人間を独り、その娘につけることにしたのだ」
「……安倍晴明ぐらいの陰陽師をつけたがっていたのに、独りだけ?」
「そうだ、余程周囲に知られたくなかったのか、そこまで大切に思っていなかったのか、そこのところは知らん。
だが帝はどうしても晴明の護りを娘につけたかったようで、どうにかするようにあいつに頼んできた。
それで、自分の代わりとなった陰陽寮の人間……播谷道臣(はりや みちおみ)に強力な式を遣わせる、ということで話をつけたのだ」



