「だが、おれやあの櫛の付喪神のように、実体を結ぶものはそう居らんぞ。
しかも人同然に言葉を扱える妖怪はごく稀だ。
人の姿を真似た妖怪の大半は、そこらにいる地縛霊のような幽体止まりだな」
「そうなの?」
「おまえたち人間には肉体があるから気にならんのだろうが、言葉には呪いに似た力がある。
言霊というのは知っているか?
おれたち妖怪は言葉を発するたびに言霊に妖力を持って行かれる。
特に強い感情を伴うものなら、口にしたとたんに人の姿を保てなくなる場合だってあるんだぞ」
「じゃあ、今もけっこうきついんじゃないの?」
思葉は顎を引いて玖皎を見遣った。
今、玖皎は平気そうな顔で人間さながらに言葉を口にしている。
口数の多い男子クラスメイトのようだ。
「ばか、おれをそこらの低級と一緒にしてくれるな。
おれの方があの櫛の付喪神よりも数段上だ、この程度で疲弊するもんか」
不愉快を惜しみなく露わにした顔で刺々しく言われてしまい、思葉は軽く首をすくめる。
それから、妖怪にも感情があるのかと気づいた。
ため息をついて、玖皎が細くした目を思葉に向ける。



