ドアベルの音が鳴りやんでから、思葉は脱力して寝転がった。
かなり力んでいたらしく、全身がどっと重たく感じる。
承諾するのは簡単だけれど、断るのはこちら側にもかなり負担になるのだ。
こんな調子でほかの依頼もきちんと説明して断れるのか、急速に不安になってきた。
「……あ、そうだ、日付書いておかなくちゃ」
思葉は起き上がりつつ、変わったお客だったなと感じた。
売りに来たというのに金は要らない、預かるだけでいいと言ってきた。
思い返してみると、彼はどこか追い詰められた様子だった。
さっさと断らず、話を聞いてみたほうが良かったのかもしれない。
(もっと余裕もって対応できるようにならなくちゃね)
息をついてメモ帳に目線を落とす。
男らしい角ばった字で『棟口辰哉(むねぐち しんや)』と書いてあった。
電話番号の下に書いてある漢字と数字の混ざった行を見て、思葉は唇を尖らせ小首をかしげる。
「あれ、あたし住所までお願いしちゃったっけ……?」
これらは立派な個人情報だ。
あまりたくさん聞きすぎるとかえって管理が大変になる。
(次はちゃんと、名前と電話番号だけにしないと)
『おまえ、仮にもお店の子だろ?』
人見知りゆえの失敗をすると、いつも來世のこの言葉が耳の奥で反響する。
ついでに、ちょっといじわるな彼の表情も目に浮かんだ。
若干イラつきながら、次からは絶対にしくじるもんかと思葉は力強く日付を書いた。



