教室にはまだ半数近くのクラスメイトが残っている。


けれども全員が自分たちのことに意識を向けているため、思葉たちのやりとりを見ている者はいなかった。



「おれ、そのことは隠しておくつもりでいたからさ……。


だけど、皆藤さんに言われて考え直して、確かにその通りだなって思った。


それでもうけっこう経っちゃったけど、井上さんたちには謝って、まあもっと早く言えって文句言われたけど、でも許してもらえたから。


だからその……ありがとな、言ってくれて」


「う、ううん、あたしの方こそお節介しちゃってごめん。でも良かったね、許してもらえて」



思葉は首と両手を一緒に振る。


口元をわずかに緩め、「そういうことだから」と言って、久保田は教室を出て行く。


彼の持ち物を見て、バドミントン部に所属しているのだと理解した。



『ありがとな』



その言葉が頭の中で反響し、にやけそうになって口に手を当てた。


誰かにお礼を言われるのは嬉しい、自分の力が役に立ったという何よりの証拠だ。


思葉は急いでにやけた表情をひっこめ、鞄を持って昇降口へ歩いた。