久保田が口をつぐんで横を向く。
その沈黙が肯定を示しているのだと思葉は勝手に解釈した。
「別にこのことを責めようとか告げ口しようとか、ダシにしようとか広めようとか、そんな姑息なこと思ってないからね。
そもそも久保田くんはわざと割ろうとなんかしてなかったのは分かってるし……。
でも、井上さんと三谷さんには、ちゃんと謝った方がいいよ。
故意じゃないにしても、久保田くんが花瓶を割って花を台無しにしちゃったことには変わりないんだから。
あの二人だって、正直に言えば許してくれるよ。
まあ、謝るときに色々厳しいこと言われるのは覚悟しなきゃだけどさ」
誰かの物を壊すということは、その物にこめられた想いを傷つけてしまうのと同じだ。
その思いに大小なんてない。
大きいから謝らなくてはならない、小さいからなかったことにしてしまってもいい、というわけではない。
人の物を壊したら謝る、それは当然のことだ。
人として通さねばならない道理だ。
思葉は久保田に視線を送り続けるが、久保田はそっぽを向いたまま何も言わない。
やがて次の授業の予鈴が鳴り、何も答えないで久保田は教室に戻った。



