「初めて会ったとき、おまえ、永近におれを自分に預かせてほしいって言っていただろ。
それって、おれの声が聴こえたからなのか」
1か月ほど前のことを思い出してみる。
あのときは永近に持って行かれそうになって、ついとっさに申し出た。
今改めて考えてみても、これといった理由が見当たらない。
「……分かんないや」
「は?分かんないって、おまえがやったことだろう?」
「本当に分からないんだよ、とっさに言ったというか、あんまり考えずに気づいたらぽろっと言っていたというか」
「何だそりゃ」
玖皎が渋面を連想させる声を出した。
小さく笑って思葉は夜の色になりつつある空を仰ぐ。
「なんだろう……友達になるのに大した理由がないのと同じ感覚かな」
「そういうものなのか」
「そういうものだよ。一緒にいると面白いからとか、なんとなく楽しいからとか、最初はそんな程度だよ」
言いながら思葉は、あれ?と引っ掛かりを感じて首を傾げた。
同じことを昔、誰かに言われたような気がする。
すぐに思い出せそうにないので、まあいいやと頭の隅に追いやった。



