妖刀奇譚






痙攣のように震える口を動かしてまくしたてるように言って、久保田がさっと踵を返した。


ここから離れるつもりだ。


半分予想していた反応だったので、思葉はすぐに前に回り込んで足を止めさせた。



「待って待って、最後まで聞いてよ」


「しつこいな!だからおれは花瓶を割ってなんか」


「掲示物!」



久保田を遮るようにして言う。


勢い余って叫んでしまった。


すると久保田がぱちりと瞬きをして思葉を見下ろした。


思葉は昨日帰り道で見かけた、鳶に目の前で餌を取られた犬の顔を連想する。


久保田と犬。


なんだかシュールでおもしろい。


いや、そんなことを考えている場合じゃない。


呆気にとられて動けないでいる久保田に話を続けた。



「剥がれてたんでしょ、花瓶のすぐ後ろに貼ってあったのが。


えーっと、何だったっけ……まあ、それはいいんだけど。


でも、それで花瓶を園原くんの机に置いて貼り直して、戻そうとしたときに手を滑らせて割った……違う?」