「両親のことは好きだと思えないし、愛に夢を抱くことはなかったけど、厳しくも優しかった祖父と祖母のおかげね。
中学生の頃、あたしには、好きな人ができたわ」
「……」
「大切な親友と恋人。大好きだった。
ふたりがいればそれで幸せだった」
遠い目をして、その頃を思い出しているのかな。
思いきり息を吐いて、今だかすかに残る未練を断ち切るようにする。
「でも、彼はあたしの親友に手を出したわ」
別の女に手を出した彼も。
あんな男を好きになって流されたあの子も。
嫌いよ、大嫌い。
そう言って、梓ちゃんは笑った。
泣いていないのが不思議なくらい、かき消えそうに。
そんな悲しい笑顔に胸が締めつけられる。
「だからもう、誰とも親しくなんてなりたくなかった。
そう思って、たくさんの人を遠ざけてきたわ。
……今のあんたみたいに」

