「仁葉、起きて」
「ん、ぅ……」
ゆっくりと瞳を開ければ、ママの顔。
「おはよう。もうすぐ着くわよ」
目をこすり、ふああとあくびをひとつ。
そんなに長い時間じゃなかったはずなのに、しっかり寝ちゃってたみたい。
改札を抜ければ、見覚えのある景色。
光ちゃんを毎日、飽きもせず追いかけていた街。
迎えは断ったから、来ていない。
時間に余裕があることもあって、ふたりで歩いて行くことに。
そんなに遠くもないし、きっと大丈夫だね。
昔と変わらない、公園の場所。
ペンキの塗り直されたらしい遊具は真新しい赤色。
壊された近所のマンションに、すっかり大きくなった植木。
変化と不変を感じながら、歩みは止めず。
西野、とおしゃれな文字で書かれた表札の隣のインターホンを押した。