「ねぇ、ママ」
「なぁに?」
「ちょっとだけ、肩貸しててね」
きゅう、と顔をうずめれば、どこか懐かしいママの香り。
心に染み渡るような気がする。
「お土産、焼き菓子でよかったかなぁ」
「うん」
「約束の時間ってまだ大丈夫だよね」
「うん」
「会えるの、久しぶりだね」
「うん」
繰り返されるその答えに大きく深呼吸。
うん、……大丈夫。
窓の方に目をやれば、移り変わっていく景色。
次々と流れていく。
そして、そこに写る仁葉とママ。
仁葉は、自分の表情をはっきりと目にする前に。
きつく、きつく目を閉じた。

