「輝がでろ甘でイライラしてきたわ」



梓ちゃんのいつも通りの苦々しい表情と、意味のわからない発言。

そして、なによりも……初めての呼び方。



「……俺は梓に下の名前で呼ぶことを許した覚えはない」



坂元くんの方にちらりと目をやると、恥ずかしそうに顔をそらして先に駅へと足を進める彼。

そのあまりにも可愛らしい照れ隠しに、仁葉は浮かぶ笑みを抑えることができない。



本当は下の名前で呼び合うようになって嬉しいんだよね。

わかるよ、仁葉もおんなじだもん。



ふたりとも素直じゃないから、その喜びを表現できなくて、誤魔化す姿がとってもとっても愛おしい。



たたたっとふたりの前に躍り出て、くるりと振り返る。

グレーのスカートが翻った。



「梓ちゃん、輝くん」



ふたりの目を見て、仁葉はここ最近で1番の笑顔を浮かべた。



「大好きだよっ」