兎に角、俺様な感じの人が好きだから里桜とはタイプが違うということにすればすんなり納得してくれるのでは無いだろうか。

 事実、間違ってはいないわけなのだから。


「うん、そうなの。……だからごめんね」

 また、少しだけ心がズシッと重くなる。

 でもさっきの二の舞になるわけにはいかない。


 すぐにそれじゃあ、と言ってここから立ち去るつもりだった。

 なのに突然里桜は近付いてきて春花の腕を掴んだ。


「え……?」

 予想だにしない彼の行動に、春花はただ驚く。


 すると弱そうな里桜からは想像出来ないくらいの力で引かれ、桜の木に背中を押し付けられた。

 一体どうしてこうなっているのか。


 至近距離で見下ろしてくる里桜を、春花は目を見開いて凝視していた。

 揺れた桜の枝からヒラヒラ舞い落ちる花弁。

 彼の名前にもある薄桃色が、その漆黒の髪にはたはたと舞い落ちていた。


 眼鏡の奥にある鋭い目は、初めて見る彼の表情。

 眼鏡と髪に隠された、秘密の花園のようなその場所はまっすぐに春花を誘っている様だった。

 誘いに乗ったら、もう戻れないような……そんな気がした。

(何、これ……? なんかちょっと、怖いんだけど……)