「俺様な俺は……大嫌い、ね……」

 思いのほか弱々しい声に、春花はやっと里桜の顔を見る。


「お前も、やっぱりそう言うんだな……」

 皮肉気に笑おうとして失敗したような表情。

 今にも泣いてしまいそうなほど、傷ついた表情をしていた。


「え? さ、がら……くん?」

 心臓が嫌な感じに早くなる。

 呼吸が浅い。

 全身の血流が早くなって、何とかしなければと急き立てる。


 だが、初めて見る里桜の様子に混乱していたこともあって、彼が何について傷ついたのかが良く分からない。

 俺様で、強引な里桜。

 彼が何の事ならここまで傷つくのか、本気で分からなかった。


 かろうじて分かるのは自分の言った言葉のせいだという事。

「あ……」

(謝らないと!)

 そう思うが、「何で謝るの?」と聞かれたら答えられない。


 理解していないのにただ謝るのなんて、謝っていないのと同じだ。

「今まで付き合わせて悪かったな……もう、良いから」

 謝罪も、他の言葉も押し出せないうちに里桜がそう言って校舎の方へ戻っていく。

 思わず伸ばした手は、彼に届く前に途中で止まる。


 謝ることも出来ないのに、引き留めてどうするというんだろう。

 春花は、焦燥を胸に里桜の背中を見送ることしか出来なかった。