間近で泣きじゃくる春花を目の前に、流石の里桜も戸惑っていた。

 やり過ぎたかもしれないと、迷う様に瞳が揺れる。


(戸惑うくらいなら、最初からこんなことしないでよ!)

 泣きながらも里桜の反応に怒りを覚える。


 こんな、苦しいだけの強引なキスは嫌だ。

 今までの甘く優しいキスが嘘だったかのように感じて悲しくなる。

 惹かれていた恋心も、踏みにじられたような気がした。


「ふっ……い……嫌い。……相良くんなんて大っ嫌い!」

 叫んで彼の胸を思いきり押すと、里桜は数歩後ろに下がる。


 好きだと思った。

 恋人同士になれるかもと思った。

 だが、それすらその強引さで滅茶苦茶にする。


(嫌い……大っ嫌い!)


 心がグチャグチャになった春花は、里桜が今どんな顔をしているのかも見ずに感情のまま言葉を放つ。

「嫌い! 俺様な相良くんなんて大っ嫌い!!」

 言い切って、肩で息をする。


 風もない今日は、しだれ柳も揺れ動かない。

 春花と里桜の時が止まったかの様な、異様な空間に感じた。


 涙が止まって、息も整ってきたころ。

 呟くようにポツリと、里桜が言った。