彼の腕が上がって、春花の後頭部が掴まれるとグッと力が加わった。

 え? と思う暇もなく、互いの顔が近付き――。


 チュッ


 触れるだけの軽いキスに、わざとらしいリップ音。

 離れていき太ももの上にまた重さを感じてから、春花は言葉を発した。


「なに……何で?」

「そりゃ、したかったから」

 里桜は言うだけ言うと目を閉じてしまう。

 そんなすぐには寝ないだろうが、なんとなくこれ以上声をかけるのは気が引けた。


 ……いいや、違う。

 単純に、春花が言葉を紡げなくなったのだ。


 両手で口を覆い、今の感覚を思い返す。


 キスは、初めてではない。
 中学の頃付き合った相手と一度だけしたことがある。

(でも、全然違う……)

 ファーストキスはただ柔らかいものが当たったという感覚。

 これがキス? 変な感じ。

 そんな感想だった。


 だが、今のセカンドキスは――。


(唇が、熱い……)

 柔らかく触れた場所が、里桜の熱を移されたかのように熱かった。

 そして何より、心が落ち着かない。


 先ほど見た、風に揺らされたしだれ柳の様にザワザワと揺れ動く。

 先ほど聞こえた合唱より大きな音が、耳の奥で鳴り響いている。


 春花は、予鈴が鳴るまでそのまま動けなかった。