ゆったりと2人の方へ歩み寄り開口1番「さすがはリリィの教え子だな」と顔をほころばせた。




「その指でよく、あの演奏を。

リリィが……弾いているのかと錯覚するほどだった」



アランは肩から黒い革のケースを外し、ケースの蓋を開け中身を丁寧に取り出した。



赤みがかった茶色、光沢のある胴体、手入れの行き届いた楽器はラベルに「IHS」の文字が印刷されてある。



「グルネリ!」



詩月と安坂。

どちらともなく、溜め息と共に思わず声を漏らした。




「リリィが事故の後に贈ってくれたヴァイオリンだ。

『もう1度、貴方のヴァイオリンが聴きたい』と」



アランの声が震えている。