金木犀のアリア

「……母さん。日記全部、僕がもらっていいの?」




「ええ、貴方のレッスン日記ですもの」



「ありがとう。……母さん、ごめん。アヴェ·マリア、聴いていたんだ……」



母親の表情が一瞬、堅くなった。



「とても暖かい演奏だった。聴いていて胸が熱くなった」




詩月はリリィとのレッスン日記を読んだ後では、母親の演奏を聴かなかったふりをしていることが、嘘をついているようで、心苦しかった。




「人様には聴かせられない演奏ね」



「そんなことない!」



詩月は、寂しそうにヴァイオリンケースを撫でる母親に、叫ぶように言う。



母親は「ありがとう」と呟き微笑んで、ポツリと言った。