目の前に立ちはだかる扉。


それに手を触れる。


この扉を横に引くだけ。


それだけで中に入れるのに。


立ちすくんでしまう私は、臆病者だろうか。


けれど、やはり、怖い。


怖くてたまらない。


脳にこびりついて離れない記憶。


『ヒドイ』

『サイテー』


クラスメイトの鋭い視線。


怖い。


怖い。


怖くてたまらない。


もし扉を開けたその先にある景色がそれと同じなら。


そう思うと、扉を開けれずにいた。


胸に手を当て、手をぎゅっと握った。


怖いけど。


でも、私はやっぱり、独りじゃないから。


『嫌われても、そばにいる』


そう言ってくれる人が、私にはいるから。



私は大きく深呼吸をすると、扉に手をかけた。



そして教室の扉を開ける。


がらり、と扉は簡単に開いた。




「あー!うらら、おはよー!」



教室の景色は、いつもと変わらなかった。


机の配置も、


板書の残る黒板も、


朝日の差し込み方も、


クラスメイトの笑顔も。



思わず、呆然としてしまった。


辺りを見渡す私を、不思議そうに見ていたのは梨花ちゃんだった。


「うららってば、どうしたの?

挨拶もしないで、不思議そうにキョロキョロしちゃって。

どうかしたの?大丈夫?熱でもあるの?」


梨花ちゃんの顔を見ると、いつもの梨花ちゃんだった。


私を心配して優しい言葉をかけてくれる。


「あ、うん。大丈夫!

梨花ちゃん、おはよう!」


私は笑顔でそう返した。


すると唯ちゃんも話しかけてきた。


「おはよう、うらら」


「唯ちゃん!おはよー!」


「本当にどうしたの?なんだか、うらららしくないね」


心配そうな顔をする唯ちゃん。


こうして話すのが久しぶりなように感じてしまう。


「うん!大丈夫!

2限目の授業の教科書、忘れたかなって一瞬不安に思っただけ!」


2人を心配させたくなくて少し冗談めかしてそう言うと、梨花ちゃんと唯ちゃんはなぜだか納得してくれた。


「そうだったんだ」


2人はそれしか言わないけど、でも絶対、うららならあり得る、とか思っているような感じがする。

まあ、いいけど。


「おはよう、うらら」


声が聞こえて振り返ると、そこにいたのは。


「亜美!」


優しく微笑む亜美だった。