「名取くん今どこにいるの? 自分のデスク?」
『いや、会議室の掃除させられてて、そこから。デスクだと周りの目もあるし』
「そこまでして電話くれなくてもいいのに……」

思わず本音が口をついてしまうと、名取くんは少し黙る。
由宇の言うとおり、名取くんが私を好きだとしたら、今の言葉にショックを受けたのかもしれない。

そうは思ったけど、仕事中に私事の電話をかけてこられるのが困るのは事実だから、フォローはしないで返事を待った。

『俺、迷惑?』
「うん……。だってまだ仕事中だよ。
名取くんは誰もいないところからかけてるからいいかもしれないけど、私はみんないるところで話してるからこの会話だって全部筒抜けだし……」

チラっと周りを見渡すと、こちらを見ていた課の人たちが慌てて目を逸らす。
そんな大きな課じゃないから、多分一番遠いデスクで聞いていませんよって顔して書類に目を通している課長にだって聞こえているハズだ。

広兼さんに至ってはもう、聞いているっていうのを隠すつもりもなくガン見だし。
キラキラした興味津々の視線が横顔に突き刺さる。

『あ、マジで? ごめん!』
「ううん。ごめんね、せっかくかけてきてくれたのに……。じゃあまた機会があったら」
『あ、姫川。俺、来週またそっちで研修あるんだ。定期預金関係のオペレーター研修。
確か火曜だったから……終わったら外で待ってる』
「え……」
『じゃあ、仕事中にごめん。来週な』