「悪い。それより梓織、今日これから警察行かねーとだろ。昨日の痴漢騒動の一件で」
「あ、そうだった。ごめんね、名取くん。もう行かないと。またね」
もう歩き出している由宇に続きながら振り返って言うと、名取くんは由宇の言葉のせいで納得いかなそうな顔をしていたけれど「ああ……また」と返事をしてくれた。
なんだか話が途中だし由宇は失礼な事を言うしで申し訳ないとも思ったけど……。
警察に行かなくちゃいけないのは事実だから仕方ないし、それに由宇が言った事も事実ではあるからまぁいいかと諦めながら由宇の隣に並んだ。
そして、少し歩いた後、隣を見上げながら「私、初めて口説かれちゃった」と言うと、由宇が視線だけ移して私を見る。
「よかったな」
「妬ける?」
「別に」
「え、妬けないの? 今日先輩に由宇の話したら嫉妬深いんだねって言ってたから、そうなんだと思ってた」
「おまえもそういう話するんだな。恋愛方面の話苦手なんじゃねーの」
「苦手……かなぁ」
「苦手だろ。経験値が少なすぎるから話についていけないだろうし、第一おまえ恋愛感情とか未だによく分かってなさそうだし」
思わず黙ると、「図星だろ」と笑われるから、ぷいっと思いきりそっぽを向く。



