「終わった―……。よし姫川、ランチ行こう」

そう言いながら背伸びをした広兼さんに、融資管理課のメール便を何も言わずに差し出してみると、広兼さんはすぐにそれを押し返した。

「なんでですか! ランチ待ってたのに!」
「それは元々昨日姫川が勝手に帰ったからじゃない」
「でも、昨日の今日で融資管理課なんか行ったら変な目で見られるし……」
「それは絶対そうだと思うけど。
じゃあもう、ランチ行きがてら一緒に行ってあげるから」

さっさと済ませてランチ行くよ、と言う広兼さんの後ろを、メール便を抱えながら歩く。
他の社員にお昼に行ってくることを告げてから融資管理課の方へ歩いていると、広兼さんが歩きながら聞いてきた。

「っていうか、姫川って星崎さんくる前から融資管理課行くの嫌そうだったよね。なんで?」
「ああ……ちょっと苦手な人がいて」
「苦手って誰?」
「……横田さん」

周りに人がいないか確認してからコソっと言うと、広兼さんが急に「ああ! あの人ね! 私も苦手!」と大声を出す。
慌てて止めると、広兼さんは反省してなさそうなトーンで、ああごめんと笑った。

「きっつい感じがするよねー。あの人。男と女で態度変えるしね」
「そうなんですか?」
「有名な話だよ。女と、自分より仕事のできない男にはすっごいきつくあたるのに、認めた男相手には態度コロっと変えて色目使うとかって。
え、だから苦手なんじゃないの?」