「さっきの犬がどうのって話。おまえの犬なら俺は別にいいけど」
「なにそれ。こないだ狼だとか言ったら動物に例えられるの嫌だとか言ってたじゃない」
「犬でも狼でも、おまえが飼い主ならどーでもいい」
「……でも全然言う事聞かないじゃない」

鎖骨のあたりに噛みつくようなキスをしてから由宇が笑う。

噛むとか、やっぱり犬だ。
跡がつくからやめてって言うのに、由宇は知らん顔で続ける。

「梓織が素直に俺を好きだって言えば従ってやってもいいけど」

何気なく発された、私と由宇の間にある壁。
そう。私も由宇も、一度も好きだって言葉を言った事がない。

こんな関係になってもう五年くらい経つけれど、言葉より先に身体を繋いでしまったせいか、たったの一度も。
意地を張ってる部分もあるのかもしれないけれど、それに対して必要性も感じていないからっていうのが一番の理由だった。

わざわざ言う必要もないって思ってたから。

「そんなの由宇が言えばいいじゃない」と誤魔化すと、由宇はわずかに笑いながら再び私の肌に唇を這わし始める。